遺言と任意後見
オーナー会社の会長が重篤な病気に罹っており入院生活が続いている状態の中で、その会社の債権者との間でトラブルが生じており、長男である現社長がその対応にあたっているものの、銀行の担保が会長の個人資産であり、現状の契約関係も会長が代表者時代に締結したものがかなりあるといったケースは、中小企業においてはよくある状況です。
この場合、会長の容体がどうなるか予測できませんし、もしかしたら意識不明となり意思表示もできなくなるかもわかりませんし、そうなった場合に会長がやるべき最善の方法を取ることができないために、致命的な損失が生じることがあります。
あるいは、現社長とともに会長も経営に関与している場合でも、会長にもしもの事が起こった場合に行うべき事項を協議し、具体的に処理方法を指定しておけば混乱を防ぐことができます。
ですから、このようなケースにおいては、会長自身が元気なうちに、自分が死亡後の財産関係の整理のために、弁護士を遺言執行者とする遺言書を作成するとともに、自分が寝たきりなどで意思能力が無くなった場合の財産管理について、弁護士との間で任意後見契約を公正証書によってしておく必要があるのです。財産管理には、訴訟を起こしたり、起されたりすることが少なくないわけですから、任意後見人としては弁護士が最適任なわけです。
意思能力が無くなった場合には、最悪の場合には法定後見制度もあるのですが、本人が意思能力が充分な時期に、本人の意思によって後見人に委任すべき事柄を決定できるのは、任意後見契約によるしかない無いのです。会社の経営の根幹を把握している経営者は、自分の病気、死亡という現実の前で、自分の能力が発揮できなくなる最悪の場合を想定して、企業がずっと存続してゆくこと、そして会社として全ての関係者に配慮できる方策を考えておくべきだと思います。