- —現場での再現結果はどうなりましたか。
- 青信号で横断歩道に入り、横断歩道を渡りきる前のもう少しのところではねられたことが分りました。その結論が、残された証拠をもとにして合理的に説明できることを主張し、タクシーの運転手の尋問により事故の原因が浮き彫りとなり、裁判所が我々の主張を認めてくれたのです。
- —ご家族はとても喜ばれたことでしょうね。何と言われましたか。
- 「家族としては、性格も生活習慣もよく分っているだけに、赤信号で横断歩道を渡ったなんて信じられません。多くの先生に相談しましたが、現場まで足を運んで私たちの話を聞いてくださったのは田城先生だけでした。知りたかった事実を見つけていただき、裁判所で認められた時は、無念が晴れて、とても清々しい気持ちでした。人情味のある田城先生に、お世話になって本当に良かったと思います。」と言っていただきました。
- —他のエピソードも聞かせてください。
-
私は、今は顧問先の依頼以外では刑事事件の相談は受けていないのですが、刑事で印象に残っている事件があります。交通事故でもめて、2人の男が、相手の運転手に大けがを負わせてしまった事件です。2人の内ひとりは容疑を認めていました。しかし、もうひとりは「自分は殴っていない」と無罪を主張していたのです。単独では無く2人で運転手を殴っていたという目撃者の詳細な証言と、被告に傷害の前科があることもあり有罪が濃厚でした。
- —弁護を開始してどうでしたか。
- 調書を見て、犯行がこと細かく記載されているところが気になったのです。それは、夜10時すぎの犯行であり、道を隔てて遠い位置にある証人から、ここまで詳しく見えるのかという疑問です。現場に行けば何かあるのでは、と直感しました。
- —現場はどうだったのでしょうか。
- 犯行時刻の夜10時すぎの現場は、明かりが無く真っ暗でした。犯行現場のすぐ横に自動車ディーラーがあるのですが、犯行時刻の前に現場に行ったところ、明りが煌々とついており、遠くからでも目撃は可能と思われました。何度か現場に足を運ぶうち、そのお店が夜10時を過ぎた途端に照明を全て消し、そうなると周囲は真っ暗になることが判ったのです。その状況を撮影して、裁判所に証拠として扱ってもらいました。裁判の結果、被告は無罪となりました。
- —どうしてそのような調書が作成されていたのでしょうか。
- 前科のある人が事件に巻き込まれた場合、関係者全員が始めからその人を犯人として扱います。「犯人に違いない」という視点を持つと、弁解も聞いてくれませんし、都合のよい証拠が一人歩きして、真実を見落とす場合があるということでしょうね。たとえ前科があったとしても、事実を曲げることは許されません。真実を発見するために、冷静に事実を確認することが大切だとつくづく思います。